広報にしあわくら 2022年 8月号より

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目次

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特集 森を音にする人たち

森を音にする人たち

旧影石小学校の理科室に一歩踏み入れると、木の良い香りと一緒に、木の風鈴の「カラコロ」という優しい音色が聞こえてきます。たくさんの木材と、その木材から生み出された楽器達に囲まれて、楽器作りをされているのはmori no otoのみなさん。ひとつひとつを手作業で丁寧に仕上げられています。

西粟倉村の森林への取組に共感され、この村で、この村の木で楽器をつくり、音楽の楽しさをたくさんの人々へ広げるために活動されています。今回は代表の石川照男さんに「森と音」の関係性や、楽器づくりのおもしろさ、またそれらを通して伝えたいことをお聞きしました。

楽器づくりのおもしろさ

石川照男さん(以下敬称略):元々音楽は趣味で高校時代からバンドを組んでいました。大学ではアメリカ民謡研究会に所属して、京都の大学だったこともあり、音楽活動がそれぞれに盛んでした。そこではアメリカンフォークソングがメインで音楽に携わっていました。

前職は大阪に本社を置く家電メーカーで家電の外観デザイン、形や色とかそういうものを作り出す部署に30年余り勤めていました。会社勤めになってサラリーマンに徹していた時代が長かったですが、58歳の時に早期退職し、友人達も同じような年齢で初心に返ってバンドをやろうと言い合い、音楽に対する気持ちに再度火が付いたんです。同時に新しいビジネスをしたいという気持ちもありました。何らかの社会的問題を解決するソーシャルビジネス立ち上げの講座で、ビジネスを継続させるために運営するにはどうするかなどを各個人が集まってグループワークをしながらひとつのテーマを膨らましていくような活動に参加していました。

そんな中、音楽が好きだったのでバイオリンを作る工房に弟子入りをしました。そこで初めて楽器作りに出会って、それがおもしろかったんです。楽器は楽器店でたくさんのお金を払って買う物という意識があり、自分で作れるものじゃないと思っていました。バイオリンって手仕事が多くて手でコツコツ作るというのがおもしろいんですよね。当時は「楽器づくり」の楽しさをみんなに広げていくことと「ソーシャルビジネス」が結びつかないかなと必死に考えてました。

西粟倉村との出会い

石川:元々デザインの仕事をしていたのでそれを活かして、もっと誰にでも簡単にできる楽器を自分で設計して、自分でウクレレを作るワークショップを大阪の工房を借りて始めました。これを中心に自分のビジネスにしていこうとしていたときに出会ったのが西粟倉村でした。他のプロジェクトをしている知人が西粟倉に行くというので同行したのがきっかけです。西粟倉村の「百年の森林構想」のことを知って、ここの木を使って自分の楽器を作れるのがいいなと思い、ヒノキを提供してもらいました。ワークショップを行っていた大阪では国産の木材を仕入れるのは高く付くし、そもそも工業デザイン出身だったので木の事を勉強したい、ならば森へ近づこうということで西粟倉への移住を決意しました。

木材の質は間伐材を利用していることもあって節が多かったりするんですが、森の学校さんの乾燥させる技術などが整備されているので比較的安定して材料は購入できているのでありがたいです。そもそも単独ではできないようなことも西粟倉村と岡山県内の企業とのネットワークができているのはものすごく有利だなと感じます。

森を音に変える

石川:ここまで木を使って楽器作りを続ける理由は、木と音の可能性があるからです。時々アイディアが夢を見ているような感じで出てくるので朝起きたらスケッチにまとめておいたりします。スケッチが形になるといろいろな音がでますし、おもしろい。木で音楽を楽しむというのは楽器の原点だと思うんです。もともとは合図をするだとか、意思を伝えるコミュニケーションの方法の一つだったかもしれません。今も楽器は進歩しています。値段も凄く高いですし。しかし、mori no otoはそれを逆流して楽器や木の音など原点に向かっているという取組が現代では新鮮に捉えてもらっていると思います。

今後は、「森を音に変える」という筋は変えずに自分達でつくった楽器で音楽を楽しむというところを伸ばしたいです。そしてその楽しさをみんなと共有する場をつくりたい。楽器というものをつくるということから、「作る体験」を提供するところから更に発展させて、音楽を通じて人と人が繋がるような事業に展開させたいです。

子ども達の笑顔を想像して

取材中、石川さんのアイディアノートを見せていただきました。スケッチブックの中には、石川さんの想う「森と音」を楽しむ空間や、またそこにいる子ども達の笑顔がたくさん描かれていました。
また、8月のイベントに向けて子ども達が川遊びに使用する水中眼鏡のデザインを実際にその場で考えながらスケッチしてくださいました。

「パソコンとかCGでデザインを考えるより実際に紙に書くのがいいんですよ」と頭の中で湧き出てくるイメージをスラスラと紙に描き出す石川さん。子ども達が実際に使う姿や、川の中にいる魚たちを発見して喜ぶ笑顔を想像して、できあがったデザイン画には、木を使って作られる水中眼鏡と、それを使って笑顔になっている子ども達の様子が映し出されていました。木材に付加価値を加えて違った何かを作り出す流れが主流になっているこの時代に石川さんは「森を音に変える」という新しい視点で西粟倉村の木を音色と共にたくさんの人々へ届けられていました。

今回取材協力いただいたmori no otoの工房での演奏を動画にしています。ぜひご覧ください。

〈デザインについて〉
8月の晴天の深い青を基調に、鳴り響く音楽が窓から聞こえてくる楽しげな風景をイメージしています。

広報にしあわくら8月号全文は以下でご覧ください。

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