広報にしあわくら 2022年10月号より

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目次

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特集 革のものづくり

革のものづくり

村内の道ばたで当たり前のように姿を見せる鹿ですが、農林産物への被害は継続的に発生している状況です。西粟倉村内では令和3年度内で約380頭の鹿が捕獲されています。今や「ジビエ」という言葉をよく耳にするようになり食用肉として注目されるようになりつつありますが、必ずしも全ての狩猟された鹿が有効利用されるわけではありません。

西粟倉村内、塩谷地区の空き屋をアトリエに改造し、革職人として活動されている渋谷肇さん。村内で廃棄され続けていた鹿皮を革に変えて、自身のものづくりを始めたいという想いで「シブヤカバン」を立ち上げられています。

鹿皮を有効活用できないか

渋谷肇さん(以下敬称略):倉敷に住んでいた時に、スタートアップウィークエンドというイベントが岡山県内で初開催されると聞き、参加したんです。西粟倉村を知ることになったのは、このイベントで西粟倉村内の企業の方と知り合ったのがきっかけです。

このイベントは、子どもから大人まで幅広い世代の参加者たちがアイディアを形にするための方法論を学んで、発表し、起業するために必要なことを学べるというもので、自分が革職人ということもあって、西粟倉村内で鹿皮が余っていて捨てられている現状や、鹿の皮を有効的に活用できないかとお話を聞かせていただきました。西粟倉村のことを知ると同時に興味を持ち、その後、訪れた際にも色々と村内の現状を聞き、起業に対してのサポートもあるということを知り、移住を決めました。

鹿革で事業をすると決意していたので、当時のローカルベンチャースクール制度を利用して起業するために、本当に自分がどうしたいか、何がしたいのかを考え続けました。

具体的には、鹿革を使った製品づくりを、どうすれば事業としてやっていけるかを毎月考えて、月に1回役場の職員の方やエーゼロ(株)の社員の方へプレゼンを行います。そこで本当に事業としてやるには、もっとこうしたほうがいいとか、アドバイスをもらって、再び事業案を考えて、それを発表して、という過程を繰り返していきます。最終的には、村の認定事業として2年間の鹿革の製品づくりを認めていただけましたが、選考中には、本当に鹿革を使いたいのか?というところを突き詰められて、審査はかなり厳しかったですね。色々な葛藤がありましたが、革職人として、様々な革に挑戦したいという一心で鹿革の製品づくりに取り組みました。

鹿革の可能性を見出す

渋谷:鹿革を扱うようになったのは西粟倉に来てからです。牛革と違って、鹿革はとても柔らかいし、通気性に優れています。逆に、日本ジカは皮の面積が小さいのであまり大きなものは作れないのが難点です。西粟倉に来て4年半経ちますが、試行錯誤を繰り返して今ようやくこういう形かなというところで鹿革を使った商品の制作をしています。帆布というヨットの帆に使われる丈夫な布と鹿革を組み合わせることでカバンなどを作っていますが、この帆布も柿渋を使って染めたもので、革と同じく経年変化していきます。今、商品に使っている鹿革は全て西粟倉村内で獲れた鹿を使用しています。

皮をレザー(革)にする工程として、生の鹿皮を村内の事業者からもらって、裏側のお肉や脂がついている部分はナイフで取って、塩漬けにします。畳んだ状態で何枚も重ねていくと重みで水分が抜けていくので、その状態で一ヶ月くらい保存します。ここから先の「なめし」という工程からは外部に依頼していますが、薬品を使用して、より綺麗に、腐らないように加工してもらってレザーができあがります。

最近では、百貨店などで商品を置かせてもらうと、「鹿革を使っているんですね」と言われるようになりました。4年半前、鹿革を使い始めた頃は「ジビエ」への認知度が、徐々に上がってきたタイミングではありましたが、鹿革に対しての世間への馴染みはほとんどなかったんです。

元々、レザーというと食肉の副産物です。日本では鹿肉の食用としての流通が少ないため、鹿革も流通が少なく、海外から輸入された鹿革が高級素材として扱われていました。今になってこそ、日本国内でジビエ問題が取り上げられることが増えて、鹿を獲って食べるということが多くなってきました。そのため、鹿革に対して、ようやく認知度があがってきた感じがします。

永く残るものづくり

渋谷:革職人になる前は、千葉で会社員として働いていて、趣味でレザークラフトをしていました。このまま会社員を続けられるのかと思っていた時、倉敷の憧れの革作家さんが偶然スタッフを募集していて、勢いで応募し、運良く弟子入りさせてもらえました。それが8年前のことです。このアトリエは見ての通り、古いもので囲まれています。それは、長くものを使い続けて欲しいという想いを込めてものづくりをする為です。西粟倉村を拠点としているのは、色々な人たちと関わることができ、知り合うことで自分にとって刺激になる為です。勉強になることも多いですし、楽しく生活ができているのも理由の一つです。アトリエであるこの空き家はものづくりに集中できる大切な場所です。自分で革の染色から形もすべてこだわって丁寧にものをつくる、持っていても飾っていてもかっこいい、そういう使い続けられるものづくりをこの西粟倉村で続けていきたいです。

鹿革で製品づくりをしたいと西粟倉村に来られた渋谷さん。ゆくゆくはこのアトリエに直接お客さんに来ていただけるようにしたいと言われています。そのものづくりへの想いがさらに広がっていくことを願っています。

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