広報にしあわくら 2022年 6月号より

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目次

特集 受け継いだ場所
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その他

特集 受け継いだ場所

ー 受け継いだ場所 ー

1960年代、西粟倉村に公共の図書館が設立されていなかったころ、中土居地区の一角に「軒下図書館」があったことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。自宅の図書室を開放する活動をされていた白岩よしさん。教育熱心で、村の子ども達に本を読んでもらいたいと児童書を始めとした書物を自由に閲覧できる場所をつくられていました。

現在、お孫さんのチャールズ裕美さんとご主人のオリビエさんが名前を受け継ぎ、図書室があった母屋を宿泊に、納屋をパン屋に改築して営業されています。お二人におばあさまの想いを受け継ぎなら、ご自身の活動に注力されている様子をお伺いしました。

チャールズ 裕美 さん

子どもたちの楽しみの場

チャールズ裕美さん(以下敬称略) 当時は村内に公共の図書館がなかったので、村の子どもたちに向けて、好きなときに来て良いよということで「軒下図書館」として開放していました。1960年から年間ぐらい活動をしていたようです。現在、60歳前後になられる方の利用が多くて、実際に図書館に来ていた方からは「優しいおばあちゃんだったよ」とお声かけいただいたこともあります。

祖母、そして祖父も旧影石小学校の教員だったこともありとても教育に対して熱心でした。西粟倉で最初の女性教育長を勤めた経歴もあると聞いています。

祖母の想いを引き継いで

チャールズ 西粟倉で暮らしていくことになったきっかけは、私がロンドンにいるときに子どもが生まれたのですが、当時、主人は出張が多く、もっと育児に関わり、ゆっくりとした生活をしたい、と思っていました。そのとき、父からおばあちゃんが住んでいたこの家が空き家になっていると聞いて、西粟倉へ移住することを決めました。宿泊業を始めるのはゆくゆくのつもりでしたが、色々あって結局はすぐに自分たちで事業を立ち上げていかないといけない状況になりました。最初の数年間は壮絶でしたね。主人はホームシックになったり、私も精神的にきつかったです。

宿泊施設でありながら「軒下図書館」という名前を引き継いだ理由ですが、立派なおうちを残してくれたことと、私自身とてもお世話になったという感謝の気持ちをこめて、おばあちゃんの大好きだった図書室を残そうと思いました。高校、大学と7年間海外留学していたんですが、そのときの費用も祖母が負担してくれて、そのおかげで今の自分があると思っています。

歴史を残しながら新しく

チャールズ 宿泊業を始めるにあたって、おばあちゃんが行っていた図書館の活動をそのままの形で続けることは難しいと思ったので、宿泊される方の憩いの場・ラウンジスペースとして利用してもらう形で運営しています。本のジャンルとしては少年少女漫画や児童書が多いですね。ぼろぼろだけど捨てられなくって。中にはおばあちゃんの歌集もあります。山への植林に対する想いであるとか西粟倉村ならではの歌が詠んであります。子育てに関する歌は村のお母さん達の思いを代弁しています。

古民家であることを魅力として宿泊営業は営業していますが、仕事で西粟倉へ来られて泊まられる方も多いので快適さも必要になってきます。このラウンジスペースにも喫茶コーナーを設けたりと、おばあちゃんの歴史や想いは残しながら、常に新しくしていかないといけないと思っています。

先人たちの恩恵を受けて

チャールズ 西粟倉にきて12年、13年目になるのですが、最近、今になっておばあちゃん達を始め先代の方々の活動や、行動がありがたいと思うことが増えました。

私がまだ小さい時、西粟倉へ時々来ていた頃は家の裏の鉄道(当時の国鉄)の工事が中断されていたので線路を歩いたりしていたことを覚えています。おばあちゃんが汽車が通るようにみなさんと働きかけをおこなっていたことも聞いたことがあります。実際に西粟倉って田舎にしては交通の便がすごく良いじゃないですか。学校でも西粟倉から県外に通えたり、すごいことだなと思います。丁度私たちが移住する少し前に鳥取道ができたり、パン屋をする上でも交通の便が良いことが大事で、環境にも支えてもらっているなって、タイミングが良くてすごく不思議です。

宿泊はコロナが流行る前は海外のお客さんが多かったです。案内も英語で作ったり。海外からのお客さんって、例えば京都でしっかり観光した後、西粟倉に来られ、のんびりゆっくり過ごされます。実際うちに泊まりにきても、何もせずにハンモックで1日読書とか、すごく喜んでくれます。

コロナ禍でも西粟倉の企業さんたちがすごく頑張ってくださっているから、視察や仕事で宿泊にきてくれる方が途絶えなかったですね。西粟倉じゃないとやっていけなかったし、ありがたいです。

自分たちのこだわりも

チャールズ 西粟倉にきて、空気が美味しいとか、水がおいしいことって当たり前じゃないなと実感しました。何より安全だし、安全はお金には換えられないのでそれらが全部手に入るのはすごいことだと思います。なので、海外からのお客さんにも安心してきてもらえていますね。朝食にだしているメニューには自分たちが作った野菜を使用して、パンやグラノーラも全て手作りのものを提供しています。

チャールズオリビエさん 西粟倉での生活は最初は寒さが厳しくて、慣れなかったです。今では海外や都市部に出向いてから、西粟倉へ帰ってくると本当に静かで心が安らぎます。今の年齢になって分かってきたのですが「静」が心地良いんです。

そんな西粟倉の環境の中でのヨガも講師の資格を取得して自宅で教室を開いています。 智頭町や佐用町など近隣からの生徒さんが多いですが、これからヨガを始めてくれる人が増えてくれたらと思っています。

おばあさんの活動されていた様子を懐かしそうに話してくださったチャールズさん。
ラウンジスペースとして利用されている図書室はその想い出と感謝の気持ちが伝わってくるような空間でした。
古くからの西粟倉村の良さを感じ、おばあさんのされていたことを残しつつ自分たちの色をしっかりと表現しながらお二人ならではの暮らし方を見つけだされていました。

広報にしあわくら6月号全文は以下でご覧ください。

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〈今月号の表紙のデザインについて〉

かつて図書館だった部屋の本棚に、一際強い存在感を放つ一冊の写真集がありました。吸い込まれるような表紙の男女の二人の眼差しが、当時の西粟倉を映している気がして、今月の表紙に配しました。