広報にしあわくら 2021年7月号より

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目次

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特集 茶人に学ぶ

写真 神原美津子さん

ー 茶人に学ぶ ー
 西粟倉村内唯一の茶道教室を開かれている神原美津子さん。御年93歳。毎朝6時30分のラジオ体操をして1日を始めるのが日課。週の予定はお部屋の黒板に綺麗に手書きされていて、しっかりと把握されている徹底ぶり。お話をされている時の笑顔がとっても素敵な神原さん。20歳頃からお茶を始められ、今でも月に一度土曜日に生徒さんに茶道を指導されています。小学生のお子さんからシルバーの方まで幅広い年齢の方が神原さんのご自宅のお茶室で茶道を楽しまれています。

 ひと言では言い表せないお抹茶の奥深さ、次の世代へ繋いでいきたいことを、お抹茶の指導を受けながら教えていただきました。

ー お茶の世界は広くて、深い ー

 茶道には数え切れないほどの流儀があります。神原さんが継がれているのは千利休から始まった裏千家流。細かい泡を点てるのが特徴で、泡が表面にこんもり山なりになるように点てられると上手と言われるそう。何千年もの歴史とともに受け継がれてきているお茶の世界。70年以上お茶に携わられている神原さんでも「お茶の世界はすごく幅が広くて深くて大変なんですよ。覚えていくことがたくさんある。だけどお茶をすることは楽しみだったり季節を知れたりするんです。」とおっしゃっていました。

ー 気楽にお抹茶に親しんで欲しい ー

 茶道教室はただお茶を点てる作法を学ぶだけではありません。茶室に入る前から、手を洗い、身体を清めるところから始まります。作法が始まると神原さんが厳しくも優しくご指導くださいます。この日の取材のために茶道教室に通われている草刈さん、白簱さん、生徒役に村内企業にお勤めの北森さんにもご協力いただきました。

 お茶を点てる部屋「本席」には掛け軸がかけてあり、お花が生けてあります。この掛け軸とお花は季節に合わせて変えていきます。本席に踏み入れると、自然と背筋が伸び、静かな部屋の中に外に流れる水の音が聞こえます。心地よいそよ風が縁側から吹いてきて凛とした気持ちでお手前を頂戴します。日常生活の中でなかなか正座をすることがないので、足がしびれる取材陣。正座も今となれば貴重な体験です。そんな様子に神原さんは、「足をくずしてください。しんどいと楽しくないからね。」と笑いながら優しく気遣ってくださいました。

 実際に指導を受けた北森さんはお作法に関してだけではなく、お茶を点てる時に使用する道具、茶道具にも四季があること、お手前をする相手をもてなすことや四季を伝えることが大切であると感じたようです。短時間ではありましたが、神原さんからのおもてなしを通して様々なことから季節を感じる楽しさを学ばれていました。また、北森さんは、神原さんがお茶席でよく着物をお召しになられていたお話から、着物についても興味を持たれたようで、

「先生から着物の着方も教えてもらいたい!」

と先生と楽しくお話をされていました。いろいろなことを知っておられる神原さんから教えていただきたいことがまだまだたくさんある様子でした。

ー 日本には四季があるでしょうそれを知るのは大事なこと ー 

 茶道の世界の中では季節を知ることはとても大切な作法の一つです。

「季節に合わせた掛け軸はただ文字を読むだけではなく、これはどういう意味なんかな、何を教えとんかなと考えます。昔からの利休さんの教えの意味を分からないと勉強にならんから。お茶の勉強は本当に季節のものを大事にするんですよね。だから季節の花を生けて、季節を感じて楽しむんです。」と言われていました。取材当時の6月は、ショウブが季節の花でした。和菓子はショウブの花をかたどったもの、生けてあるお花はテッセン、山あじさい、竹の新芽。水色、紫の花の色が梅雨時期の少し肌寒い気温にぴったりです。

 お稽古の間、生けられたお花の前に腰かけてご指導くださっていました。お花の可愛らしさと神原さんの上品さが相まって気持ちがとても安らぎました。

 お菓子やお花から初夏を充分に感じながら、普段季節を知ることと言えば、暑さや寒さ、イベント事など身をもって体験して分かるような受け身なことばかりになっていた気がするなと気づかされます。先人が残した詞、自然の草花から自分で季節を感じることができるきっかけがこの8畳の空間には詰まっていました。

ー 茶道をいかに広めて受け継がせるか、次の世代へ繋げていくか ー

 現在コロナの影響で休止中ですが、神原さんは幼稚園で出前講座の活動や、温泉まつり、ふれあい祭りでお弟子さんとともにお茶席を設けられています。幼稚園でお茶教室をすると子ども達が上手にお茶を点てる様子をとっても嬉しそうに教えてくださいました。しかし、「最近の子は動的なことにはすごく興味を持つけれど、静的なところにはあまり関心がないみたいでなぁ。」と少し寂しそうに話されていました。そんな時代の中でも、神原さんの意志ははっきりとされています。力強くこう語ってくださいました。

 「茶道は親が知っていると子どもも知るきっかけになる。小さい頃から季節を感じることや、お花を知ることができることはお茶の道の中ではとても良いことです。お茶は日本の文化の伝統だと思います。お茶という日本の伝統文化をどう広めていくか、そして次の世代へ受け継がせることが使命だと思っています。」

ー 伝統文化と日常生活 ー

 人と人との繋がりが強いこの西粟倉村。その繋がりを活かしてちょっとしたきっかけから家族と、友人と、いつもと違う時間を過ごしてみることも必要なのかもしれないと思いました。インターネットやSNSが普及している現代。手で触れることのできない情報が行動を起こさなくても入ってくることが当たり前になっている中で、日本の伝統文化と言えば莫大で、自分から一歩を踏み出さないとその世界には入れない、普段の生活とはかけ離れているもののように思っていました。茶道に対しても、作法がたくさんあり、それを覚えることで日常生活に役立てていくというイメージでした。しかしながら、神原さんとお話をしていく中で、茶道は自分自身が楽しむ時間を過ごすための娯楽のひとつであり、思っていたよりもっと気軽に携われるものであると感じました。

 ちょっと神原さんとお話をしてみたい、美味しい和菓子を食べてみたい、最初はそんなきっかけかけでいいと思います。お茶の作法を教えていただきながら、季節を目で見て楽しみ、音で感じて、お抹茶をいただく。それだけで日本の文化に身をもって触れることができ、体験を誰かに伝えるだけで伝統の継承につながります。茶道をまずは楽しむ、そして神原さんから「生きるを楽しむ」方法を教えていただく、そんなひとときがここにはありました。

広報にしあわくら7月号全文は以下でご覧ください。

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