『西粟倉の子どもたちに自信と誇りを』教育コーディネーターが語る子どもたちの未来

「西粟倉の子どもたちに自信と誇りを持ってもらいたい」

笑顔で語ってくれたのは一般社団法人Nestの今井晴菜さん。
村の子どもたちの学びを深めるために、教育コーディネーターとして学校と地域の橋渡しを担っています。また、子どもたちの「やってみたい!」を実現していく「あわくらみらいアカデミー」の企画と運営も行なっている今井さんにNestの活動や村の子どもたちについて伺いました。

●西粟倉に来る前はどのようなお仕事をなさっていたのでしょうか?

奈良の公益社団法人で観光やまちづくりに関する仕事をしていました。より多くの方に奈良を訪れてもらうための様々なイベントを企画したり、集客につながる取組みを担当していました。

●どのようなきっかけで西粟倉と関わるようになったのでしょうか?

2020年4月に地域おこし協力隊の求人を見つけたのがきっかけです。
前職で実感したことは、観光は地域を経済的に潤しますが、「地域外」だけに目を向けていると「地域内」の人々の暮らしが置き去りになってしまうということです。地域を活性化するという目標に対して、観光以外の方法で関わる事はできないかと考えていたときに、西粟倉村のNestの求人を見つけました。地域への誇りや愛着をもとに活性化することができるのではないかと感じ、応募しました。

●「あわくらみらいアカデミー」とNestについて教えてください。

あわくらみらいアカデミー(以下、AMA)は、西粟倉村役場の地方創生推進班(現在は地方創生推進室)の企画として立ち上がりました。小中学生を対象として、子どもたちが自主的に「自分たちのやってみたい!」と思ったことをサポートし、実現する活動を行っていました。例えば「生でサッカーの試合が観たい!」という子供の声をきっかけに、他の子供たちも巻き込んでサッカー観戦を実現したり、ダンスのイベントを開催したりしてきました。

子どもたちの企画も実施され、活動も盛り上がってきたAMAですが、役場の方は本来の業務の合間をぬって活動されており、多くの時間を割くことは難しい状況でした。また、役場内で定期的に異動があるため、継続的に子どもたちと関わり、ノウハウを蓄積することが困難でした。そこで、役場の外郭団体としてNestを立ち上げることで、継続的かつ恒常的に子どもたちのサポートをしていくことになりました。

現在Nestでは、AMAの運営の他に小中学校における地域全体をフィールドにして学ぶ授業のコーディネートをしています。小中学校の「総合的な学習の時間」について、授業の組み立てを先生方と行なったり、授業内容に沿ったお話をしていただける地域の方を探し、子どもたちの前でお話しいただいたりしています。特に、西粟倉村に赴任されたばかりの先生方はまだ西粟倉のことをよく知らないという事情もあるので、Nestが役場や地域の方と連携する役割を担っています。また、今年度から学校外での新規学習プロジェクトの企画・運営などを行なっています。

●Nestが担う「社会教育」とはどんなものでしょうか?

学校教育ではどうしても子どもたちに「インプット」する授業が多くなりがちです。学校のカリキュラムの中では時間的な制約も大きく、生徒の自主性に任せた取組みを増やすことが難しい現状があります。
一方、社会教育では子どもたちの中にある思いや行動を引き出し、子どもたちが主体的・自発的にチャレンジすることをサポートします。例えば、AMAの場合、教育コーディネーターとして学校内で子どもたちと交流する中で、子どもたちからの「やってみたい!」という声を受け、企画、実施しています。
具体的なエピソードをお話しすると、昨年はコロナの影響で子どもたちがキャンプに行くことができませんでした。そこで小学校5年生の女の子から「火をつけたい!」という発言があり、それを聞いた他の子どもたちも「それなら焚火をしてマシュマロを焼いて食べたい!」と、どんどん話が盛り上がり、みんなで焚火をする企画を実施しました。

子どもたち一人ひとりの声を拾って、子どもたちができるところは子どもたち自身にやってもらい、できない部分を大人がサポートして実現する。この取り組みを通じて子どもたちが自信を持つことに繋がればと思います。

●西粟倉における教育の課題はどんなことでしょうか?

西粟倉特有の問題ではないかもしれませんが、子どもたちはずっと同じメンバーで幼稚園、小学校から中学校まで過ごすので、それぞれの立場というか、キャラクターが固定的になってしまう面があると思います。

例えば、自分が何かやりたいことがあっても、コミュニティの中での自分のキャラとは違うので、素直に言い出せない場面もあるようです。友達同士では全く悪気はないのですが、どうしても狭い世界なので自分の気持ちを抑えて遠慮してしまう。

また、高校に進学した際に急に環境が変化することも大きな課題のひとつです。小さなコミュニティで育ったこどもたちも高校に進学した際には、村外に出てばらばらになっていきます。中学校までずっと同じメンバーで育ってきて、突然、高校から全く知らない同級生たちと一緒になるという環境の変化は、子どもたちにとっても大きなプレッシャーになります。そういった背景があるなかで、一部の子どもたちが西粟倉村出身であることを恥ずかしく感じてしまう、という現実もあります。

子どもたちの人間関係に端を発する課題について、学校や先生が個別に時間を割いてアプローチをしていくのが難しい面もあるので、私のような第三者的な立場からも力になれればと思っています。

●今後の目標などお聞かせください。

ありがたいことに「子どもたちは村の宝」と口をそろえておっしゃるように、西粟倉の皆さんは子どもたちのことを温かく見守っていらっしゃるので、村全体で子どもを育てていくという感覚が共有されていると感じています。

そうやって愛されて育っている中で、さらに子どもたちに自信と誇りを持ってもらいたい。それを目標、テーマとして取り組んでいきたいです。
どんな地域でも、うまく環境に馴染めない子や、悩みを相談する相手がみつからない子がいると思います。そんな子どもたちも含めて、学校でも、家庭でもない居場所を提供するということも大事な仕事だと思います。
そして、活動を通じて子どもたちに楽しみながら、様々な人と関わりあいながら、様々な体験をして貰えればと思います。チャレンジすることを恐れず、失敗しても良い、失敗してもまたみんなでチャレンジすればいい、ということを伝えていきたいです。