森林と人が繋がっていく未来に向けて想いを繋ぐために始めた保育家具づくり

多くの山主がプライドと情熱をもって守り、継いできた西粟倉の林業。 木材の価値が下げ止まらない今、先代の意思を次世代に引き継ぐための國里さんの構想とは。

株式会社木の里工房木薫 國里哲也さん

僕の一言に山主さんがガクッと肩を落とした。その時やっと目が覚めた。

國里哲也さんは西粟倉の出身。おじいさんは林業に従事していて、小さい頃から森や林業の仕事の大変さをたくさん聞かされていた。でも、國里さん自身は林業には全く興味はなかったという。

私が森林組合に就職したのは、平成7年のことです。その時は林業には全く興味はなく大阪から地元に帰ってきて、ただそこが募集していたから就職したという感じでした。
昔は山の木を切って、それを売ることで生活のお金を稼ぐことができたのですが、私が就職した頃はすでに木の価格は下がり、産業としては下降している途中だったので、仕事で関わる山主さんは、みんなその状況を嘆いていました。
小さい頃からおじいさんに、山の仕事の大変さや木や森の大切さを聞かされていましたが、私自身はたいして問題意識もないまま仕事をしていたんです。
そんな中、組合に入つて3年ぐらい経ったある時でした。ある山主さんからこう聞かれたんです。
『國里くん、どうやったら木の価格は上がるんだろう?』
それに対して僕は本当に何気なく、『無理なんじゃないですかね一』と答えてしまったんです。その時その山主さんはガクッと肩を落として、『そうか無理か…』と寂しそうに答えました。
その時にハッとさせられたと言うか、今までの自分の組合での働き方も振り返って、この人たちはこの山に夢やプライドを持って関わってきたのに、そんな方々に対して自分は何をやつているんだろうと、思ったんです。
その時から疲弊していくこの西粟倉の林業を何とかしたい、そう考えるようになりました。

西粟倉の林業を本格的に立て直そう、と決意した國里さん。とても息の長い林業の再生を考えた時に、誰に何を届けるべきなのか?答えは自ずと出たという。

疲弊していく林業をなんとかするためには、木や森の現状に関心を持つ人を増やさないといけません。『一人でも多くの人に今の林業の問題を知ってもらう』、ということを最終目標とした場合、はじめの一歩って何になるかな?と考えたんです。
それはまず、西粟倉の木を使い、尚かつしっかリデザインされた木の製品(椅子やテープルなど)を都会のユーザーに購入してもらうこと。そしてその価値を認めてもらうことです。そうすれば、少しづつでも都会の意識は森に向いていくと思います。ただ、B to Cで商売を考えた時に、木薫の事業規摸では難しい。
なので、11年勤めた森林組合を退職して独立する時には、子どもに向けてB to B事業をすると決めていました。保育園家具や遊具の制作と販売です。
なぜ子ども向けなのかというと、僕が子どもの頃は物心ついたら身の回リに自然があったけれど、今の子どもたちは土や木など、本物に触れる機会があまりにも少ない。林業はとても息の長い事業なので、僕らの下の世代にちゃんと事業をパスしていかないといけません。僕らが出したパスをしっかリ受け止めてもらえるためにも、子どもたちが小さい頃から本物に触れておくことは、とても重要だと思ったんです。
『三つ子の魂、百まで』つて言うでしよ?僕らが子ども向けにやるのはそういう発想です。

三つ子の魂、百まで林業の未来を引き継ぐのは子ビもたち山主さんから子ビも達へ想いをつむぐ、國里さんの林業全体の未来

独立してからずっと保育園家具・遊具で勝負してきた國里さん。それに触れた子ども達が、その本物の香りや手触り、温もりを感じること。そのことを通じて、國里さんが成し遂げたい林業の未来像を聞いた。

僕らは山に入って木を切るところから、その木を子ども向けの家具や遊具に加工し、保育園に納品するところまでをやっています。山主さんが大切に育ててきた木を切らしてもらい、間伐をしながら森を育てる。その切った木を使って、デザインにこだわった椅子や机を作り、都会の子どもたちに届ける。売値は自分たちで決めて、そのお金はちゃんと山主さんに還元する。つまり誰も損はしないので、しっかり広がるし続いていくんです。こうやって、林業を起点にして、関わる全ての人が等しく満足するのが理想です。
でも、もっと広い意味で都会と山をつなげることを考えた時に、木薫の商品だけでなく、僕の話やここでの体験を通じて、もっと山や山主さんに興味を持ってもらいたい。
中学生の時にここを見学に訪れてくれた若者が今高校3年生になって林学を学ぼうと頑張っているみたいで。その子は、『今まで林業なんて全く興味がなかったけど、西粟倉に来て自分はこの仕事がしたいと思った』と言ってくれたんです。
こんなふうに次世代と林業の繋がりを生み出していくことで、代は変わっても想いは引き継がれていくんじゃないかと思うんです。それ自体はとても果てしなく大変なことだけど、この村の林業をずっと継続させていくために、未来永劫、続けていかないといけないことだなあ、と思うんですよね。

(1)森林組合時代の隔里さん。入った当初は林業には全く興味がなかったという。
(2)現在の木薫の森林整備のメンバー。木薫には他に、保育園に営業にいく部署と保育園家具をつくる部署がある。
(3)保育園に納品する椅子。1オ用、3オ用、5オ用と年齢に分けて細かくサイズ調整されている。
(4)家具の制作風景。ここで約10人のスタッフが作業している。
(5)家具や遊具を制作する二房。ここで作られたものは、岡止県近隣に限らず、全国の保育園に還ばれていく。

※この記事の内容は2018年時点のものです。

株式会社木の里工房木薫(カブシキガイシャ キノサトコウボウ モックン)

ADRESS:〒707-0504 岡山県英田郡西粟倉村長尾739-5
TEL:0868-79-7330
MAIL:info@mokkun.co.jp
WEB:http://www.mokkun.co.jp