自分が楽しむことで周りも楽しんでくれる。 喜びが循環する草木染め。

ソメヤスズキ 鈴木菜々子さん

人が布をまとう事、素材への関心。西粟倉で仕事にする環境が整ってきた。

 鈴木菜々子さんは東京生まれ、東京育ち。自然豊かというほどではないものの、多摩川のほとりで四季を感じながら育った。美大卒で植物好きの父親が、草花の名前をたくさん教えてくれたおかげで、植物との距離は近かった

 私はファッションが好きで、高校の服飾部ではショーを開催するような子でした。でも、シーズンごとに流行を追うアパレル商品といったものよりは、色や人が布を纏うといったことに興味がありましたね。素材や布自体に興味が向かい、美大でテキスタイルを専攻していました。自分で織ったり染めたり、色の微妙な差、素材感、シルクや綿などの使う素材そのものに関心があって。草木染めと出会ったのは学生結婚して子どもを産んだころです。自然のものだけで色が染まるということにとても感動しました。それでも子育てもあり自分の興味があることで就職できるか、仕事になるか、ということまでは考えられませんでした。子どもを産んで食や暮らしへの意識の変化が起こり、選ぶものが自然のものに切り替わっていくなかで、東京から離れようと決めたんですが、直後に震災が起こり、西粟倉へ移住しました。

 西粟倉では西原さん(フレル食堂店主)が、独立を考えていて「食堂をやりたい」と言われていた時期でした。個人で起業するということが身近に感じられ、一緒にやってみようかということに。難波邸(岡山県美作市)で、西原さんは食堂、私は工房。ワークショップや展示会、販売もできる場所との出会いにより、それまでは趣味でやっていたことが、服をつくるプロジェクトの中で、デザイナーと働いたり縫製を外注したりと、製造の仕方が変わってきました。好きなことを「仕事にできるかな」という気持ちになってきたんです。

大量生産・大量流通の世界ではマイナス。でも、だから良いと言うお客さんがいる。

草木染めは既存の市場や流通の枠組みの中では商品として扱いづらい。しかし西粟倉の自然や、お客様と触れ合うなかで、草木染めをする環境、モノと人が出会う環境が整ってきていると鈴木さんは感じている。

 私が草木染めをしているのは、環境や持続可能性とか地域資源といった理由ではなく、染める工程だったり、出る色だったりが純粋に好きだから。あとは「草木染めが仕事になる」ということを子どもや次の世代に残したいという気持ちもあります。

 ただ草木染めって本当に手間がかかるんです。狙った草木を採れるいいタイミングは限られているし、育てるにしても 1 人でできる量は限られているとか。染料を買うにしても何をするにしても、商品開発にすごくコストと時間がかかるんですね。さらに商品は褪色もするし、同じものはたくさん作れない。となると結局、経年変化の検証もしないまま販売店預けてお任せします、というのは通用しない商品です。でも、使い込んだものは染め直しもできるし、見方を変えればそれは付加価値になる。商品自体のデザインももちろん大事なんですけど、自分で商品を作ってお客さんに渡るまでの「流れ」もきちんとデザインすれば、仕事にすることはできるんだと思っています。

  4 年半やって、大量流通から見たらマイナスポイントでも、だからこそ「良し」としてくれるお客さんは確実にいることがわかってきたんです。そういうお客さんに向けて私は作っていけばいいんだと感じ始めているところです。

花の名を知り、親しみを持つ 。そんなきっかけを作り出したい。

少し前まで、作品と商品の違いに囚われて悩んだこともあった鈴木さん。今はアートでも工業的な商品でもなく、自分の手仕事を通してメッセージを伝えられる商品にすればいい、と感じられるようになってきたという。

 自分が作ったものを介して『人』が向こう側に見えてきているので、それはすごく楽しいですね。一緒に仕事をする人も、見てくれる人も、買ってくれる人も。「自分が作ったものを通して」というのはやっぱり嬉しいです。仕事の先に 「人」が見えないことって昔はいっぱいありましたが、自分が本当に良いと思えるもの、好きなもので人とつながれるというのは、たまらない体験です。

 「きれい」とか「美しい」というのは絶対的なものではなく、相手の状況や精神状態にもよると思うので、「これ、美しいでしょう」という押し付けはしたくない。私の仕事の仕方や、染めた色、作ったもの、言葉なんかがきっかけで、誰かがこれまで気づかなかったきれいなものに気づけるとか、子どもを可愛いと思えるとか、ご飯を美味しく思えるとか、そういった状態になれる環境や時間を提供していきたいです。

 例えば、ワークショップをしている時、私が父親にしてもらったように花の名前を教えてあげると、皆さんすごく良い顔をして帰ります。いつも通る道にその花があることに気づくこと、そして親近感を持つような感覚、そういう状態を、自分が関わることで作り出せるようになりたいなと思っています。

ソメヤスズキ HP:https://someyasuzuki.com/

写真:MOROCOSHI(https://morocoshi.com/)