その一瞬を狙い撃つ 〜森のジビエができるまで〜

猟師 白畠正宏さん/羽田知弘さん

面積の約93%が山林の西粟倉村。杉や檜が所狭しと立ち並ぶ森の中にはたくさんの生き物たちが暮らしています。

1,500人に満たないこの村の人口よりも鹿の数の方が多いと言われているだけに、耳を澄ませば鹿の鳴き声がどこからか聴こえ、真っ暗な夜道を車で走行していると鹿と遭遇し危うくぶつかりそうになることもしばしばです。食べ物を求めて動物たちが山の麓へ降りてきているんですね。

そんな自然豊かな西粟倉村では、村の猟師さんたちと連携し、野山を駆け回った野生の鹿のお肉を「森のジビエ」と名付けて、全国にお届けしています。

全国の各地域には狩猟者が集まる民間団体として「猟友会(りょうゆうかい)」と呼ばれる会員組織があります。今回は村内のベテランハンターの一人、西粟倉村猟友会の会長 白畠正宏さん(76歳)にお話を伺いました。

その一瞬を狙い撃つ、狩猟の楽しみ

– 白畠さんは狩猟をいつ頃始められたのでしょうか。

白畠:狩猟免許を取ったのは昭和42年、24歳やな。ただ、それまでも山に行きよったでな。隣のおじさんにくっついて連れて行ってもらったり。その頃は「わな猟」なんてやってなかったで鉄砲ばっかり。西粟倉だけでも37人は銃の免許を持っとる人がおったと思うわ。わなでやりだしたんは、20年ほど前からじゃで、歴史は浅い。

近所はもちろん親戚にも猟師が何人かいたこともあって、山に入って猟をする事は好きじゃったな。僕らが最初狩猟を始めた頃なんて、この辺は鹿なんて一匹もおらなんだ。イノシシはおったけどな。その頃はイノシシ、野うさぎ、ヤマドリ。その3つくらいが主な狩猟鳥獣じゃったな。全部鉄砲で。

僕が最初にやり出したのはヤマドリとかキジ。

飼っとった猟犬を連れて、朝会社に行くまでにちょこちょこっと山行ったり、会社終わってからも日没までの間に行ったり。

山の野いちごを鳥が食べるんや、その辺を歩いて回ると、犬は鼻が利くでな、50m手前くらいから鳥の匂いがわかるで、そろそろ、そろそろと鳥に近づいて行くんや。10mぐらい前まで近づいたら犬がピタッと止まるんや。その間にハンターが鉄砲を持って行って、一番打ちやすい場所はこっち側がええかこっち側がええか思って狙って。ここがええなと思って決めたら、犬に「いけ」いう合図をして、犬がバッ!と鳥に向けて飛び込む。そしたら鳥がブワッ!と飛び立つ。その時を狙ってバン!と打つ。面白いで〜。

– お話を聞いているだけで楽しさが伝わってきます。確かに鉄砲で狙い撃つ時の「獲った!」という感覚は面白く感じそうですね。その点、わな猟は地味なので。笑

的中率は50%くらいかな。鉄砲の射撃の腕もじゃし、犬の良し悪しもあるし。血統の良い犬を探してきたら、あんまりトレーニングせんでも本能でいきよる。それを20年くらいはしたかな。猟犬もウサギを獲る用の犬だったりを2匹飼って。それが終わった頃から鹿が増えだして。異常に増えだしたな。ぐぐぐっと。

その頃からわな猟を始めたんじゃ。

– 鹿のお肉を食べたりは?

鹿なんか食べれるもんじゃ思うてなかった。目の前におっても獲ろうともしてなかったなあ。イノシシのグループ猟を会社を辞めた60歳から始めたんや。それまでは会社員しながらじゃから、一人でできる鳥やウサギの猟。少しずつ鹿も出るようになったけど、鹿は撃たんかった。

趣味としての狩猟と、自衛のための狩猟と

僕らが狩猟したのは好きなことが一番と、イノシシとシカの農作物の被害が出だしたと。

もちろん自分の田んぼもあるし山もあるんで、それの被害を守るためにやったというのと、2つの目的があったわけ。好きな趣味と、自衛のためと。

山際の田んぼはイノシシの被害が軒並みやった。鹿は庭の花や植木なんかも何でも食べよるで。

こんだけ鹿がいっぱいいっぱい増えてきたら、昔の人ばっかりではなかなか捕獲の数が伸びんけども、最近は若い人が入ってきてくれて、おかげさんでいっときの倍くらいの捕獲数になったからな。みんなのおかげやと思うわ。

– 西粟倉村では地元の人だけでなく、20代30代の若い移住者の狩猟者も年々増えてきていますよね。ジビエ料理を専門としたレストランや、食肉の通販、鹿の革を使った鞄作りなど、地域の中で狩猟のその先の循環が生まれていることがすごく良いことだなと思います。

村内では白畠さんのような銃を持った古くからのベテラン猟師さんの他に、副業として狩猟を行なっている若い人の存在も増えてきました。

続いては、そのうちの一人である移住者の羽田知弘さん(29歳)にお話を伺いました。村内企業の「株式会社 西粟倉・森の学校」で営業マンとして働く傍ら、どのように猟をされているのでしょうか。

自分で獲った肉を自分で食べるという憧れ

– 狩猟を始めたきっかけはどのようなものだったんでしょうか。

村に来た時に住み始めたシェアハウスがあって、そこで同居していたメンバーが狩猟免許を持っていて、おもしろそうだなって。自分で獲った肉を自分で捌くってかっこいいなって。

自分で肉を獲るっていうことは尊いなと思っていたので。外国産のブロイラーを買って食べるだけじゃなくて、自分で山に行って獣を獲って、それを捌いて食うっていうのは憧れている世界観に近かったです。

自分の父親が愛知県の奥三河っていう西粟倉よりももっと田舎の出身だったので、じいちゃんや父さんを見てて自然の中でどうサバイブするかみたいなことに漠然と憧れがありましたね。だから猟を始めたし、畑をやったりするのもそういうところが影響していると思います。

– 羽田さんはわな猟専門の猟師さんだと思いますが、フルタイムの会社員をしながら生活の中で猟の時間をどのように取っているか聞かせてもらえますか。

最低週8時間は狩猟に費やそうと決めていて、平日5日は出勤前やお昼休みや夕方にちらっとわな場を見て、微調整や確認作業をする。土日のどちらかで3時間は山に入って新たにわなをかけ直す。そのやり方で平均したら猟期は週に1匹獲っていました。ちゃんと数にこだわろうとしたのはこの1年くらいなのでまだまだ試行錯誤の最中です。

副業でやっているから楽しいというのはは大いにありますね。これをメインの仕事にする気はなくて。狩猟は自分が考えて動いた分だけ結果が出るので、労働集約的だけどPDCAがめちゃくちゃ回転するから面白いです。そういうのが毎日わなを周るたびにわかるので。

– 獣害がひどいから喜ばれるっていうのもありますよね。近所の方からも「困ってるからたくさん獲ってね!」と言われたり。

近所のおばあちゃん達も鹿を獲ったらめちゃくちゃ喜んでくれるけど、でも僕は獣害の被害のためにやっているとは思っていなくて。そんなのおこがましいから、僕は自分のために鹿を獲って、お金を稼いで、肉を食べているだけなんだ、と思ってやっています。

ジビエを使って様々な料理にチャレンジする楽しみ

– 状態の良い鹿は止め刺しと血抜き後、エーゼロ株式会社が運営する獣肉処理施設に持って行かれているそうですが、食肉にするにあたって猟の段階で気をつけていることはありますか。

自分も頻繁に自宅でジビエ料理を食べるので、いかに状態良く捕獲をするかはわなをかける段階から意識していますね。後ろ脚にはモモ肉など大きい部位があるので、前脚にわなが掛かるように工夫したり。わなに掛かった鹿にあまりストレスをかけたくないので、朝見回りに行くのもそのためです。

– 羽田さんおすすめの食べ方はありますか。

鹿肉は鉄分が多くて脂肪分が少ないから、火を通しすぎると硬くなってしまうんです。ジップロックに入れて湯煎して低温調理するやり方はしっとりしてローストビーフみたいになるのでオススメです。おもてなしの一品にも良い。手間ですが鹿ジャーキーもつまみには最高のアテでしたよ!手軽で美味しいのは、薄く切った鹿カツがオススメですね。

知り合いがやっている東京のイタリアンビストロで西粟倉の鹿肉を使ってくれていたりするのも嬉しいですね。肉そのものの状態はもちろん、調理法でも美味しさは格段に変わります。ジビエが初めての人にも、過去に食べて苦手だった人にも、美味しい!と思ってもらいたいです。

副業としての楽しみと、食を通しての楽しみ。ライフスタイルの中に狩猟を上手く組み込んで、山間地域ならではの充実した日々を送っている羽田さんの様子が印象的でした。